アラン編み ケーブル編み 違い

編み図. セーターやカーディガンなどのニットウェアとは、ご承知の通り「編み物」だ。当然その歴史は「手編み」から始まる。「手編み」の起源については諸説あるが、確認されている最古の編み物は3世紀のものだという。その後、古代の商人たちによりヨーロッパ各地へ広がり、徐々に「手編み」製品は産業として発展していったという。しかし16世紀後半に「足踏式編み機」が発明されたのを機に、産業革命を経て大量生産が可能な「機械編み」が一般化。それと同時に産業としての「手編み」製品の生産量は一気に減少していった。その工程上、元々マスプロダクトとはなりえない手編み。機械編みの製品が市場に出回るにつれて、家庭内でも家族や近しい人のためにニットを手編みする人々も徐々に少なくなってゆく。だがその一方で伝統的製法を頑なに守り続けた人々たちにより、手編みのニットウェアはそれぞれの地方で独自の進化を遂げ、様々な「メッセージ」を持った編み模様を生み出してゆくことになる。伝統的な手編みの代表的アイテムといえるのが「フィッシャーマンズセーター」。今回のテーマである「ニットウェアに編み込まれたメッセージ」を語る上でも、このフィッシャーマンズセーターは欠かせない存在だ。「フィッシャーマンズセーター」とは、その名の通り漁師達の仕事着を起源とするニットウェアの総称。地域によっては「アランセーター」「ガンジーセーター」という呼び名を持つこともあるが、ともに海に囲まれた島々で誕生したという共通点をもつ。漁のために過酷な荒海に船を出すフィッシャーマンの夫や息子、恋人の男たち。彼らを寒さや冷たい海水から守るために、島の女性たちが編み始めたものが、フィッシャーマンズセーターのルーツといわれている。フィッシャーマンズセーターの特徴といえば、独特な模様が編み込まれたニッティングパターンだろう。このパターンは単にデザインとして美しいだけでなく、それぞれの模様には意味あるという。つまりその模様ひとつひとつに、大切な人のためにセーターを編んだ女性たちのメッセージが込められているのだ。伝統的なフィッシャーマンズセーターのメーカーとして外せないのは、140年以上の歴史を持つアイルランドの老舗ニットウェアブランド〈ニットに使われる羊毛は、化学肥料を使っていない有機牧場で飼育された羊から採れるピュアウールのみ。羊毛本来の色を生かすため、染色も環境に配した最小限の処理で済ませており、淡い色とナチュラルな風合いがその特徴だ。それでは本題のニッティングパターンに込められたメッセージを読み解くとしよう。ともに繁栄や富を願うとともに、働くことの素晴らしさを称える柄であることがわかる。イギリスとフランスの間に浮かぶチャンネル諸島のガンジー島で1976年に創業した〈熟練の職人による製法はそのままに、伝統的なニッティングパターンやディテールを現代的なシルエットに落し込んでいるのが特徴のニットメーカーだ。「ケーブル編み」といえば、誰しも一度は聞き覚えがあるだろう。当然そこにもメッセージは込められている。周りを海に囲まれた島で生まれたニットウェアだけあって、こちらはより海や漁に関係した編み模様だということがわかる。フィッシャーマンズセーターを語る上で、忘れてはいけないブランドが〈インバーアランのニットウェアは、防水性に優れた未脱脂のアラン糸を太く撚りあわせ、1枚のために熟練したニッターが約90時間を費やし、25,000ステッチ以上を施すことでようやく完成する。糸の調達から含めると、出荷されるまでなんと6カ月もかかるというから驚きだ。品質保証として全ての製品にはニッターのサインがつけられているという点においても、インバーアランが手編みであるということは証明されている。そのフィッシャーマンズセーターに編み込む模様のデザインや織り方・配置や組み合わせは、家々によって異なっており、母親から娘へと継承されていたといわれている。その模様には、愛する人が不運にも荒波に飲まれてしまい、変わり果てた姿で岸に打ち上げられたとしても、セーターの柄からその持ち主を判別できるという機能もあったという。だが、織り手の側に思いをはせると、海難事故を防ぐお守りとして、無事を祈りながら一針ずつ編み進めて行ったことは想像に難くない。もしたとえ帰らぬ人となっても、海に生きた男たちを最期の時まで温かく包み込んだフィッシャーマンズセーターは、女性たちの愛そのもののように思える。手編みセーターの柄について語る際には、神話や物語のモチーフが編み込まれた「カウチンセーター」も見逃すことはできないだろう。カウチンセーターは、カナダのバンクーバー島に住むファーストネーションズ(=先住民)である「カウチン族」が住むカウチン・バレーで誕生した。もともとは19世紀初頭にスコットランド人からカウチン族に編み物の技術が伝えられたものだが、この地において独自の進化を遂げる。狩猟民族であるカウチン族にとって「自然」、そしてそれにまつわる「神話」は、生活の一部。おのずとデザインモチーフとして、セーターの柄に編み込まれるようになったのだ。カウチンセーターとして日本人に馴染みが深いブランドといえばそのカナタのセーターから、そこに編み込まれたカウチン族たちの神話に想いを馳せてみよう。製作者の様々な思いが編み込まれたカウチンセーターの柄。これらの意味を参考にしながら選ぶことで、手に入れてからもより愛着が湧くのは間違いないだろう。もともと狩猟の際の作業着として用いるために、太い毛糸を手で紡ぎ、厚地で丈夫に編まれたカウチンセーター。その佇まいが我々を魅了してやまないのは、撥水性と防寒性を兼ね備えた機能美に加えて、「神話」というメッセージが編み込まれているからかもしれない。衣服に神話が描かれているのは、世界的にも極めて珍しいことだという。神話が宿るニットウェア。ファッションに造詣の深い方であれば、ここに「ロマン」を感じ取ってもらえるのではと思う。神話の世界に想いを馳せながらカウチンセーターを纏うことで、冬の生活はより豊かなものになるに違いない。そして英国スコットランドのシェットランド諸島で生まれたニットが、様々な色で幾何学模様が織り込まれた「フェアアイルセーター」だ。この地に生息する羊から取れるシェットランドウールは古くからその品質の良さで知られており、この諸島の中に「羊の島」という名のつけられたフェア島(Fair isle=フェアアイル)も位置している。フェアアイルセーターの特徴は、幾段にもわたり織り込まれた幾何学模様。これはグレートブリテン島とスカンディナヴィア半島の間に位置するシェットランド諸島の歴史的背景から、ケルト文化(ブリティッシュ柄)と北欧文化(ノルウェージャン柄)という異文化が混在され生まれたともいわれている。この「フェアアイル柄」もまた、フィッシャーマンズニット同様に各一族によって編み方や模様の種類は微妙に異なっていたともいわれており、かつては家紋のような役割を果たしていたという説もある。このフェアアイルセーターの代表的なブランドが、シェットランド諸島最古のブランド編み手の減少により、手編みから機械編みに移行してはいるものの、その原料となるウールの産地とフェアアイルセーターの特徴でもある色の出し方については、いまなおこだわり続けている。現地で調達された良質なシェットランドウール100%にこだわっていること。 その色はシェットランド諸島の伝統に従い、天然の「草木染め」によるものであること。天然素材で染め上げられた地元産のウールを使い、織り込まれた伝統的な柄のジャミーソンズのフェアアイルセーターに袖を通すことは、いわばシェットランド諸島の伝統という「誇り」を纏うことでもあるように思う。最後に、伝統を受け継ぎながら現代的な製法とディテールを取り入れている、新興ブランドにもフォーカスしてみよう。海洋国家ゆえ、ニット産業が盛んであったデンマークの地で生まれた後継者不足から衰退傾向にあるデンマークの伝統産業、ニットの技術を未来に継承すべく、アンデルセン夫妻が伝統的なニットの型や素材を研究した末、2009年に立ち上げたブランドだ。上質のメリノウールを使い、小さな家族経営の工場で職人たちの手によりしっかりと編まれたニットは型崩れしにくく、毛玉もつきにくい仕上がりに。漁師やハンターの着用していたデザインに影響を受けたというこのブランドのニットには、下記のような機能的にも優れた特徴がある。これまで紹介してきたような編み地とは異なるものの、このブランドが編み出すニットウェアのディーテールそのものが「着る者への思いやり」というメッセージなのではないだろうか。これまでニットウェアに込められてきたさまざまな「メッセージ」を読み解いてきたが、つまるところそれは編み手が着るものに対して込めてきた「想い」に他ならないように思う。単なるファッションやトレンドとしてニットウェアを消費してゆくのではなく、そのものに込められたメッセージを受け取り理解しながら大切に着続けることで、そのニットは本当の意味で「似合う」ものになっていくのではないだろうか。ひと針ずつ想いを込めながら編み上げられたニットウェアは美しい。あなたにも、この冬そんな生涯の一着と呼べるニットウェアに出会って欲しい。
編み図.
こんにちは。クリーマの柏村です。 秋冬のおしゃれとして楽しむ、ニットのセーターや小物たち。素材や色、シルエットにこだわる様に、ニットであれば「編み模様」にこだわる方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。 今回は、編み模様の中でも伝統的な意味を持つとされる「アラン模様」について、その歴史と意味を紐解いていきます。アラン諸島は、アイルランド本土西側に位置する、3つの島からなる地域です。最も大きなイニシュモア島でも、東西約12km、南北約4kmの小さな島で、主な産業は漁業、農業、観光業。大西洋に囲まれた島には日常的に強風が吹いており、岩盤から出来た土地は決して農業に適した土地ではありませんでした。強風が作り出す荒波は、漁業を営む漁師たちにとっても、優しい環境とは言えなかったでしょう。そのような環境下で船を出す自分の息子や夫を寒さや濡れから守るために、1000年も前から島の女性たちが編み始めたセーターが、アランセーターの発祥と言われています。羊の毛本来の乳白色を活かしたセーターは、含まれる油脂分が海水から彼らを守り、太い毛糸で編まれた事で分厚く風を通さないため、保温機能にも優れていました。そして、ケーブル(網)、ハニカム(蜂の巣)、ツリーオブライフ(生命の木)など様々な意味を込められて作られた模様達は、それぞれの家庭によって少しずつ異なる事で家紋のような役割をしており、漁師たちが不幸にも遭難してしまった際に、そのセーターの模様によって誰であるかを判断していた、と言う悲しき伝説があると言います。それでは、実際にアラン模様が象徴するものや意味を、作品を例にして、作家さんのコメントと共に紹介させていただきます。漁師たちが使う、縄や命綱を表します。その象徴から大漁や安全を示すと言われており、また交差する縄の模様は、結婚や子孫の繁栄を意味するとも。クリエイター:pearさんのコメントクリエイター:Juhla[ユフラ]さんのコメント漁に使う網の目を表した編み模様。富と成功、そしてその形通り宝物を示します。クリエイター:miluさんのコメント広がる生命や、人生の時間を意味するツリー・オブ・ライフ。長寿や家族の繁栄を願っていたと言われています。クリエイター:Lankaさんのコメントハニカムは、そのまま蜂の巣を意味するとも、漁網を広げた姿を意味するとも言われています。前者は蜂が象徴する子孫繁栄や仕事への報酬、後者はダイヤモンドと同様に富と報酬を意味します。クリエイター:soh-naさんのコメントその他にも、アラン模様の中には、アイリッシュ・モス(海や土地への感謝、アイルランドに自生する海藻を広げた姿を模している)、ロブスター・クロウ(豊漁を意味するロブスターの爪)、トレリス(荒波を防ぐ島に築かれた石垣、命を守る砦を意味する)、アイルランドの人々にとって身近な存在であるブラックベリー(豊穣や、実りの多い人生を意味する)のように、自然のモチーフがとても多く存在しています。 これらの模様を考えたアラン諸島に暮らす人々が、自然を如何に大切に身近に感じていたか、そしてそれと同時に、自然に対して畏怖や畏敬の念を持っていたことが感じられます。そんな気持ちを持っているからこそ、自然に感謝や願いを捧げ、その気持ちを思って編んだセーターを大切な人達に着せていたのかもしれません。 冒頭で説明したような、アラン諸島の厳しい環境を振り返れば、自然をそのように感じる事も納得出来るような気がします。ここまでアラン諸島の環境から、アランセーター・アラン模様の歴史、特長をご紹介してきましたが、調べていくにあたって、意外な内容を耳にしました。それは、アラン模様が家紋のような役割を果たしていた事実はなく、また歴史自体もせいぜい100年程度のものである、と言う証言です。 それらの証言によれば、まず、アラン模様にある特徴的な模様の組み合わせは、1906年にボストンに渡ったアラン島の女性マーガレット・ディレインとマギー・オトゥールが、その地で移民として暮らしていた女性にケーブル編み等の模様を教わり、それを帰国した彼女たちが島に広め、そこから様々な技法と混ざりあい生まれた、と言うのです。別の話では、ノラ・ギルと言う女性が1800年代後半に交流のあったクレア州(アイルランド本土の州)の女性から、ケーブルやダイヤモンドのような基本的な模様を教わった、と言う説もあるそうです。 そのどちらも、アラン模様が1000年以上の歴史があり、そして家紋のように代々受け継がれてきた、という伝説とは異なっています。 また、「1000年以上の歴史」と言う伝説が広まった背景には、ユダヤ人実業家のハインツ・エドガー・キーヴァが大きく関わっているのではないか、とも言われています。彼は、1936年にダブリンの手芸店で手に入れたアランセーターを元に、オックスフォードに設立した会社でセーターの複製を行い、その普及に務めた人物です。そしてその普及の際、5~6世紀ごろにイニシュモア島に修道院が立てられており、そこで暮らす修道士たちの服に施されたケルト模様にアラン模様と類似点があった事などから、アラン模様、またアランセーターには1000年以上の歴史がある、と言う説を彼が披露していた事が分かっています。そして、事実、アラン模様の普及は彼の会社から始まった、とする見方が強く、その普及と共に、彼の披露する説が伝説の一端として広まったのではないか、と言われています。上記の内容を証言する人々がいる事や、アランセーターの販売に関する事、修道院の建設などは、もちろん事実でしょう。ですが、実際の所、アラン模様の発祥に関する部分はあくまで推測でしかなく、現在、すべての事実を知る事はできません。 そして、たとえアラン模様の歴史が100年程であったとして、その裏側に悲しい伝説がなかったとしても、これまで多くの人々がアラン模様を元にしたセーターを編み、そこに自分たちの生活と密着した自然を描き、様々な想いを込めてきた事や、島の大きな産業として多くの人々の生活を支えてきたその事実、複雑な模様を組み合わせたアランセーターの美しさと魅力は、変わる事がありません。 アラン模様の事を知っていくにつれて、そして、Creemaで販売されているニット作家さんからその作品に込められた想いを実際に伺った事で、私の中のその気持ちは強固なものとなりました。 意味や込められた想いを知る事で、今まで当たり前に見ていた作品ひとつひとつが、また違ったように見えるのではないでしょうか。参考文献CATEGORY ワンリピート 60目×24段. 編み図. ぽこっと盛り上がった丸い模様がポップコーンに似 ていることからつけられた編み方です。