「ピロリ菌の除菌をしたのに、胃の調子が良くならない。」「除菌後も全然薬が減らない。」そんな不安や不満を抱えていませんか。実は、ピロリ菌の除菌治療をしっかり行っても、萎縮性胃炎(慢性胃炎)による胃粘膜の炎症や異常が改善するまでには時間がかかります。また、胃の不快な症状の原因がピロリ菌ではないケースもあるのです。そこで今回は、ピロリ菌除菌後も胃の不快な症状で悩む方のために、ピロリ菌以外の原因や腸内環境にもスポットを当てて、症状の改善に役立つ方法をまとめてみました。この記事の目次まず、萎縮性胃炎(慢性胃炎)という病気をしっかり理解するために、病気の概要や初期症状、診断に必要な検査について解説します。病院やクリニックで「慢性胃炎」といわれていても「萎縮性胃炎」であることがあるので、「ピロリ菌除菌後も、胃の不調が続く…」という方はぜひ読んでみてください。萎縮性胃炎とは、胃の粘膜に長期間にわたり炎症が生じた結果、粘膜が萎縮して胃液の分泌が少なくなってしまう病気です。「萎縮性胃炎」という名前は聞き慣れないかもしれませんが、慢性胃炎とほぼ同じ意味で使われることが多いです。萎縮性胃炎(慢性胃炎)は自覚症状があまりなく、特徴的な症状もありません。そのため、萎縮性胃炎になっていても気づかないで過ごしている人が多くいると考えられます。一方で、食欲不振や胃もたれなどが生じたり、軽い消化不良があらわれたりする人もいます。萎縮性胃炎(慢性胃炎)には特徴的な症状がないので、症状のみで診断を行うことはできません。そのため、経鼻あるいは経口の内視鏡(胃カメラ)で検査を行い、胃粘膜の異常を確認する必要があります。そして、胃の粘膜が薄くなって粘膜下の血管が透けて見えている(血管透見像:けっかんとうけんぞう)、あるいは、胃の粘膜が腸の粘膜のように変化している場合(腸上皮化生:ちょうじょうひかせい)には、萎縮性胃炎が疑われます。萎縮性胃炎と診断された場合には、原因を調べるためにピロリ菌感染の有無や血液検査を行います。ピロリ菌の検査は、内視鏡で組織の一部を採取する方法のほか、薬剤を用いた呼気試験、血液検査や尿を調べる方法などがあります。検査方法のうち、便を調べる方法(便中抗原法)は便を採取するのみなので痛みを伴わず、また検査薬を服用する必要もないので体への負担が少なく、幼い子供から高齢の方まで幅広く適用することができます。■迅速ウレアーゼ試験 内視鏡検査の際に組織の一部を採取して行う検査一方、血液検査では、胃粘膜の萎縮具合や胃酸分泌の程度、免疫にかかわる値などを調べます。■ペプシノゲン検査 胃で分泌されるペプシンの前段階の物質(ペプシノゲン)を調べる検査 (胃粘膜の萎縮について知ることができる)次は、萎縮性胃炎(慢性胃炎)の原因についてです。現在、萎縮性胃炎の原因と考えられているのは「ピロリ菌の感染」と「免疫の異常」です。萎縮性胃炎(慢性胃炎)の原因として最も多いのは、ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)という細菌による感染症です。ピロリ菌は胃に感染する細菌で、多くの人は幼少期に感染します。ピロリ菌の感染経路はよくわかっていませんが、飲水や食べ物を介して感染すると考えられています。そして、幼少期に感染することが多いのは、体を守る免疫機能が十分に確立していないからだといわれています。ピロリ菌は、胃内の尿素を分解する「ウレアーゼ」という酵素を産生します。そしてウレアーゼにより尿素が分解されると、アンモニアが発生します。胃酸(塩酸なので酸性です)はアルカリ性のアンモニアによって中和されるので、胃の中はピロリ菌にとって居心地の良い環境となります。また、発生したアンモニアは胃の粘膜を傷つけ、炎症を起こします。このようにしてピロリ菌が胃内にとどまり、炎症を繰り返し起こすことで胃粘膜は次第に弱り、萎縮して萎縮性胃炎となります。なお、衛生環境の整った近年の日本では若年者のピロリ菌感染率は下がっていますが、高齢者では半数近くがピロリ菌に感染、あるいは感染歴のある世代もあります。人の体には、自分自身の体を病原菌などから守る「免疫」というシステムがあります。しかし、免疫機能が何らかの理由でうまく働かず、自分自身の体を攻撃してしまうことがあります(自己免疫)。このように免疫システムの異常が発生して胃壁の細胞が攻撃されると、粘膜の炎症や萎縮が起こり萎縮性胃炎(慢性胃炎)になることがあります。このように免疫の異常で起こる萎縮性胃炎は、ほかの胃炎と区別して「A型胃炎」と呼ばれることもあります。萎縮性胃炎(慢性胃炎)は自覚症状が乏しく、健康診断で初めて発見されることも少なくありません。しかし、胃粘膜に炎症が生じることや胃酸の分泌がおさえられることなどから、腹部に不快感を覚えることがあります。また、放置すると胃潰瘍や胃がんなどほかの病気の発生リスクが高まることが知られています。萎縮性胃炎(慢性胃炎)になると、「胃がチクチク痛む」「おなかが張る」「胃が重い」などといった腹部の不快感のほか、軽い消化不良がみられることがあります。しかし、不快な症状と胃粘膜萎縮の程度は必ずしも一致せず、腹部の不快な症状がひどいからといって萎縮性胃炎の症状が進んでいるとは限りません。なお、萎縮性胃炎でみられる症状は、ほかの病気でも生じることがあります。そのため、症状のみで萎縮性胃炎の有無を判断することはできません。萎縮性胃炎(慢性胃炎)は放置すると、胃がんの発症リスクが高くなることが知られています。実際、スウェーデンで行われた調査では、胃内視鏡で萎縮性胃炎がみつかった人のうち50人に1人が20年以内に胃がんを発症したと報告されています。また、ピロリ菌が原因の萎縮性胃炎の場合、胃がんだけではなく胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫(血液のがんである悪性リンパ腫の一種)、胃過形成性ポリープ(胃粘膜の一部が盛り上がるポリープの一種)などになりやすくなります。特に、胃の粘膜が腸の粘膜のように変化した状態になっている腸上皮化生がある場合は、胃がんになりやすいといわれています。一方で、免疫の異常で起こるA型胃炎の場合、鉄やビタミンB12の吸収率が低くなって貧血(鉄欠乏性貧血、悪性貧血など)になることがあります。また、ビタミン不足から舌炎、手足のしびれ、知覚の異常といった症状があらわれることもあります。さらに、A型胃炎は1型糖尿病(生活習慣とは関係なく発生する糖尿病)や自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病や橋本病など)を合併することがあります。なお、これらの症状は萎縮性胃炎があるすべての人に起こるわけではありません。萎縮性胃炎であっても胃がんを発症しない人、またそのほかの合併症を生じない人もいます。ここからは、萎縮性胃炎(慢性胃炎)の治療法についてです。萎縮性胃炎の原因によって治療方法が異なるので、ピロリ菌が原因の場合と免疫異常が原因の場合に分けて解説します。検査によってピロリ菌に感染していることがわかった場合には、除菌を行って胃粘膜の炎症を改善します。また、ピロリ除菌は胃がんなどの発生軽減を目的として行われることもあります。ちなみに、ピロリ菌の除菌は消化器内科を標榜するクリニックや病院であれば、ほとんどの医療機関で受けることができます。除菌後も定期的な内視鏡検査が必要となることが多いので、自宅や勤務先から通いやすい医療機関で治療を受けることをおすすめします。除菌治療では、胃酸の分泌をおさえる薬1種類と抗生剤2種類を1日2回、1週間続けて服用します。のみ忘れが多かったり、自己判断で服用を中断したりすると除菌がうまくいかないことがあるので、1週間しっかり飲みきれるようにスケジュールを組むようにしましょう。なお、除菌治療の副作用として下痢や軟便、腹痛などが生じることがあります。軽い症状であれば薬の服用を継続し、自己判断で治療を中断しないようにしましょう。一方で、出血を伴うようなひどい下痢や湿疹などの副作用が生じた場合には、治療の継続が困難になるケースがあります。このような場合には再受診して、除菌継続の可否について指示を受けるようにしてください。また、除菌にはペニシリン系抗生物質を使うので、ペニシリンアレルギーがある人は事前に医師と相談する必要があります。ペニシリンアレルギーがある場合には、ペニシリン系抗生物質以外の薬剤を使用して除菌治療を行います。なお、1回目の除菌治療が成功しなかった場合には、薬の内容を変えて2回目・3回目の除菌治療を行うこともあります。現在では、2回目までの治療でほとんどの人が除菌できるといわれています。除菌に成功すると、胃の不快感や痛みなどは軽くなることが多いです。また、ピロリ菌除菌後の再感染率は2~3%程度と非常に低く、再感染することはほとんどありません。しかし、粘膜の炎症や萎縮の改善には時間がかかります。そして、胃がんが発生する可能性もゼロではありません。そのため、除菌後も定期的に内視鏡検査を受ける必要があります。免疫の異常が原因で萎縮性胃炎(慢性胃炎)が起きている場合、現在のところ根本的な治療方法はありません。ただし、萎縮性胃炎に伴う諸症状、つまり胃の痛みや不快感などがある場合には、必要に応じて胃の粘膜を保護する薬などを使って症状を和らげます。また、貧血や手足のしびれなどがある場合には、鉄剤やビタミン剤を使用します。さらに、胃がんなどの早期発見のために定期的な内視鏡検査が必要となります。一方で、免疫の異常をきたしている要素をできるだけ取り除くことで、症状の悪化をおさえられる可能性はあります。免疫の異常をきたしている要素を取り除くためには、免疫の異常がどのようなときに起こるのかを知らなくてはなりません。免疫の異常が発生する原因は未だ明らかになっていない部分が多いですが、ウイルスや薬物、日光、放射線などがきっかけで生じることがあります。また、免疫に関与する白血球の一種が正常に機能しなくなるケースや、遺伝的に免疫異常を起こしやすいという人もいます。では、免疫の異常を回避するにはどうすればよいのでしょうか。方法としては、異常の原因となる要素を取り除くことが考えられます。そして、異常の原因となる要素にさらされてもそれに耐えうる体内環境が整っていれば、異常の発生を回避できる可能性があります。免疫の異常が発生するためには、きっかけとなる何らかの「ストレス」が必要です。ここでいう「ストレス」とは、疲労やプレッシャーなどの身体的・心理的なストレスだけではなく、先に述べたようなウイルスなどによる感染症や薬物・日光・放射線といったものも含まれます。ストレスを避けるためには、生活習慣を見直して規則正しい生活をすること、感染症にかからないようにすること、むやみに薬を飲まないこと、外出時には強い日差しを避けるようにすること、などが必要となってきます。もちろん、すべてのストレスをゼロにすることは不可能なので、実行可能な範囲でストレスをなるべく軽減するようにします。さらに、胃粘膜に対するストレスをおさえることも大切です。熱いものを食べたり、辛いものを摂りすぎたりすると、胃に過度な刺激を与えることになります。胃への刺激を和らげるために、食事はなるべく胃に優しい消化の良いものを摂取するようにしましょう。しかし、食生活をはじめとした生活習慣を見直し、ストレスを軽減することは簡単なことではありません。人によっては、業務上の理由で規則正しい生活をすることが難しい場合もあります。そこで、免疫の異常を回避しうる環境を整えることが必要となってきます。ここで注目したいのが、腸内細菌です。腸内には、善玉菌や悪玉菌、日和見菌(ひよりみきん:健康なときは特に問題はないが、体調が悪くなると悪玉菌に加勢する菌)などといわれる細菌が1,000種1,000兆個以上、重さにして1.0~1.5kgも存在しています。この膨大な数の腸内細菌は、互いにバランスを保ちながら体調をコントロールする働きを担っています。悪玉菌の増殖・侵入を防ぎ、腸の運動をうながす働きを持つ。 ビタミン類を合成し、食物の消化吸収を補助するほか、感染症を防いだり免疫力をアップしたりする働きもある。有害物質(毒素や発ガン物質、ガスなど)をつくり出す。悪玉菌が優位になると便秘や下痢、肌荒れ、アレルギーなどを起こすことがある。一部は食中毒の原因ともなる。 脂質や動物性タンパク質の多い食事で増えやすい。善玉菌と悪玉菌のうち、数の多い方に加勢する。腸内細菌の様子を電子顕微鏡で観察すると、細菌の種類ごとに集まって植物が群生する花畑(flora:フローラ)のように見えます。このことから、腸内で一定のバランスを保ちながら共存するさまざまな細菌の集まりを「腸内フローラ」と呼びます。腸内フローラには、といった働きがあります。ちなみに、腸内フローラの理想バランスは、「善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7」とされています。善玉菌優位の腸内フローラを整えるためには、善玉菌を含む食べ物と、善玉菌を増やす効果のある食べ物を同時に摂取することが効果的です。善玉菌を多く含む食べ物としては、ヨーグルト・納豆・キムチ・ぬか漬け・みそ・チーズなどの発酵食品が挙げられます。一方で、善玉菌を増やす効果のある食べ物としては、水溶性食物繊維を多く含むゴボウ・ニンジン・オクラ・ブロッコリー・ホウレンソウなどの野菜、納豆、里芋やこんにゃくなどのイモ類、海藻、キノコ類、果物があります。また、オリゴ糖を多く含むタマネギ・ネギ・ニンニク・アスパラガスなどやバナナ、大豆などにも、善玉菌を増やす効果があります。■善玉菌を含む食品 ヨーグルト、納豆、キムチ、ぬか漬け、みそ、チーズなど■善玉菌を増やす効果のある食品●水溶性食物繊維を含む食品 ゴボウ、ニンジン、オクラ、ブロッコリー、ホウレンソウ、納豆、里芋、こんにゃく、海藻、キノコ類、果物など●オリゴ糖を多く含む食品 ゴボウ、タマネギ、ネギ、ニンニク、アスパラガス、バナナ、大豆など脂肪分や肉類の多い食生活、加齢、抗生物質の副作用、精神的なストレスなど逆に、腸内フローラのバランスが崩れる要因としては、脂肪分や肉類の多い食生活、抗生物質の副作用、精神的なストレスなどが挙げられます。さらに、加齢によっても腸内フローラのバランスが崩れることがわかっています。また、といった症状がある場合には、悪玉菌が優位になっている可能性があります。しかしながら、腸内フローラのバランスを重視するあまり、偏りのある食生活を送ることはおすすめできません。バランスの良い食事を摂り、しっかり睡眠をとって疲れやストレスを解消することが、腸内フローラを整えることにつながります。ピロリ菌を除菌しても萎縮性胃炎(慢性胃炎)が治らないというケースは、少なからずあります。それは、ピロリ菌を取り除いても胃粘膜の回復には時間がかかること、また、萎縮性胃炎の原因がピロリ菌以外にあることなどが原因として考えられます。ピロリ菌以外の原因、つまり免疫の異常に原因がある場合、免疫の異常に関与する要素をできるだけ取り除き、免疫の異常を回避しうる環境を整えることが必要になっています。その一つとして重要なのが、腸内フローラを整えることです。そして、腸内フローラを整えて免疫力をアップするためには、食生活を整えて規則正しい生活をすることが欠かせません。萎縮性胃炎がなかなか治らない場合には、食生活の改善などを通じて腸内フローラを整えるように心がけましょう。– – – – – – 監修医師 相澤宏樹自律神経失調症の治し方【薬物治療と生活療法】2019.04.15骨粗鬆症の原因と乳酸菌による対策2019.04.15口臭ってそもそも何なのでしょうか?2019.04.15橋本病という病気について2019.04.15ホットフラッシュの原因と症状を抑えるためにできること2019.04.15高尿酸血症の原因と体に現れる症状について2019.04.15カテゴリー人気タグおすすめ記事過敏性腸症候群の症状は4タイプ!治すカギは腸内フローラにあり?「腸内」「膣内」「口内」フローラとフランス人の対処法膣内フローラと女性疾患に関係がある?腸活を始める前に知っておきたい知識!腸内フローラを正しく知って健康・長寿を目指そう!「体を大切にしたい」