スポンサーリンクテレビドラマのカルテットが評判になっていますね。カルテットをテーマにして毎回演奏シーンがあるというのが珍しい気がしますが、実はカルテットといいながら弦楽四重奏曲は演奏されていない・・・まあ弦楽四重奏曲はあまりポピュラーではないし、カルテットが必ず弦楽四重奏曲を演奏しなければならないということもないのですが、音楽ファンとしてはちょっとがっかりしないでもない。カルテットの本分である弦楽四重奏曲にも名曲はたくさんあるよというわけで、この記事では弦楽四重奏曲の名曲をまとめます。カルテットは四重奏のことで弦楽四重奏は正確に言えばstring quartetになりますが、ただカルテットというとふつうは弦楽四重奏を表すといってよいと思われます。弦楽四重奏曲がどういうものかは記事の後半に書きますから、気になる方は参考にしてください。古典派の三人の大作曲家によって弦楽四重奏曲は発展し、完成しました。たくさんの弦楽四重奏曲中もっとも重要なものはこの三人の作品です。弦楽四重奏を聴こうと思ったらまず古典派のものを聴くことをおすすめします。ハイドンは25才から死の6年前にあたる71才まで、77曲もの弦楽四重奏曲を書きました。古典派以降主流となるスタイルはハイドンが確立したもので、つまり若いころの作品と晩年の作品は全く違うスタイルをもっているのですが、主要な作品とされてもっともよく演奏されるのが、およそ1793年から1803年までにつくられた曲です。この曲は1790年につくられた曲で、第一楽章のかわいらしい主題から「ひばり」と呼ばれて親しまれています。◇1793年に作曲された作品71と74はそれぞれ三曲の弦楽四重奏曲からなっていて、「ロンドン四重奏曲」あるいは「ザロモン四重奏曲」と呼ばれています。これらの曲はロンドンの一般聴衆の前で演奏されたもので、簡潔な表現を基本にしています。第74番のほか第71番も名曲です。当地(ザロモン)のヴァイオリン奏者が達人だったために、第一ヴァイオリンの優位が目立ち、この曲でもヴァイオリンの俊敏な動きがみられます。◇ハイドンの作品は有名なもの以外はちょっと手に入れにくく、この曲もあまり録音されていません。この曲は1794年に作られた作品76(6曲)のうちのひとつで、これらの作品は各声部(楽器)のバランスがとれ、充実した響きをもっています。品のよい曲ですが、音楽の純粋単純な楽しみが保たれている部分もあってその辺ハイドンのすごいところです。この曲はハイドンの最高傑作のひとつとされ、第二楽章のテーマは今のドイツ国家になっています。作品76中では他に「五度」などが有名です。◇1799年に第81番とともにかかれたもので、ハイドンの弦楽四重奏のうちもっともすばらしいものです。この曲も録音が少ないですが、上記のコダーイ四重奏団やモーツァルトもまた生涯に渡って弦楽四重奏をかきつづけました。全部で23曲あるうちの10曲ほどが有名でよく聴かれます。モーツァルトの弦楽四重奏(ハイドン四重奏曲以降)は終楽章の重要性を増したことや、1stヴァイオリンに重きをおいていたハイドンに比べ四人の奏者がそれぞれ活躍することなどが特徴です。モーツァルトは1773年に初めてハイドンを訪問し、以後親交を持ちます。1782年から85年までに作曲された6曲はハイドンへ献辞されたことから、「ハイドン四重奏曲」と呼ばれます。この曲はハイドン四重奏曲のうちの第4番で、狩のときに用いられた角笛を模倣する”五度”が使われていることから「狩」と呼ばれています。◇ハイドン四重奏曲の第6番にあたる曲で、この「不協和音」というのは第一楽章の序奏からつけられたものです。第一楽章には異様な序奏がついていて、何調なのかもよくわかりません。そこにハ長調の明るく前向きな、そして簡潔なテーマが出てきます。◇ベートーヴェンの弦楽四重奏曲はあらゆる弦楽四重奏曲中もっとも重要なものですが、またそれだけ難解なものでもあります。ベートーヴェンも四人それぞれが役割をもって活躍するような書き方をしていて、最後には有名な「大フーガ」などがでてきます。フーガということは各声部が対等ということです。ベートーヴェンは1816年以降しばらく弦楽四重奏をつくりませんでしたが、1722年から26年にかけての最晩年、5曲の弦楽四重奏をかきました。この曲は全部で6楽章からなる曲ですが、事情があってフィナーレが2つあります。「大フーガ」がその一つです。どちらが演奏されるか、あるいはどちらも演奏されるかは時によります。第5楽章のカヴァティーナは”無限旋律”という切れ間のないメロディを持つ非常に美しい曲で、ベートーヴェンの室内楽曲の頂点のひとつです。◇この曲は13番と合わせて、ベートーヴェン本人が認めた、弦楽四重奏の代表作です。冒頭いきなりフーガから始まるめずらしい曲で、全部で7楽章あります。◇古典派の時代弦楽四重奏は相当流行っていたようですが、ベートーヴェン以降は、なんというかクラシック音楽あるあるというか、あまり盛んに作られなくなります。先輩の完璧な作品がかなりの重荷になっていたようです。これ以降はそれぞれ一曲ずつ紹介します。シューベルトはベートーヴェンと同時代を生きた人で、弦楽四重奏を比較的多くつくっています。シューベルトは人生の後半1824年から26年の間に3曲の弦楽四重奏曲をかきましたが、その中この「死と乙女」が特に有名です。この曲はアンダンテ(第二楽章)が歌曲「死と乙女」にもとづいています。また第一楽章と第三楽章も”死のコラール”で開始します。”死”というのが晩年のシューベルトの重要なテーマのひとつです。◇ブラームスは古典派の大作曲家を意識して、というかしすぎたことで有名ですが、弦楽四重奏においても交響曲と同じ具合でした。1837年に出版された四重奏曲も完成までに相当の時間を要したようです。1番2番とは対照的なウィーン風の曲で、古典派の影響が大きく見られる曲です。第一楽章の冒頭はモーツァルトの「狩」と似た雰囲気を持っています。◇ドヴォルザークはブラームスに並ぶほど室内楽の発展に貢献した作曲家で、14曲もの弦楽四重奏をかいています。ドヴォルザークがアメリカへ渡って交響曲「新世界より」等を書いたのは有名な話ですが、この曲も現地の音楽を吸収してうまれたものです。第一楽章に五音音階的なメロディーがでてきますが、これは日本人にも親しみやすい音楽です。◇フランクは遅咲きの作曲家で、有名な曲も少ないのですが弦楽四重奏曲は傑作のひとつとされ、後世の作曲家達におおきな影響をあたえました。この曲はフランク最晩年の1890年に完成した曲でベートーヴェンやシューベルト、ブラームスをよく研究してできたものです。フランクの特徴である循環形式(全曲を通して同じテーマが用いられる)で作曲されています。◇19世紀の終りになってもベートーヴェンの影響は強く残っていて、弦楽四重奏は簡単には手がつけられないジャンルだったようです。それでもそれぞれの作曲家からひねり出すようにうまれたいくつかの名曲があります。フォーレも長く弦楽四重奏をかきませんでしたが、最晩年になって構想し、完成させました。フォーレ最後の作品です。全三楽章からなる曲です。フォーレらしい理知的で静かな曲で、特に第二楽章は非常に美しいです。◇ドビュッシーの音楽はそれまでのどんな音楽にも似ていないものですが、弦楽四重奏曲もまた伝統的なクラシック音楽以外のものを吸収した結果できたものです。第一楽章に現れる”フリギア旋法”のテーマが繰り返しでてくる循環形式の曲です。第三楽章のアンダンティーノではドビュッシーらしい全音音階が用いられています。◇バルトークは民族音楽収集とそれに基づく作曲が有名な作曲家ですが、弦楽四重奏曲を6曲残しています。バルトークの弦楽四重奏は古典派のものとくらべると楽器の奏法も拍子もハーモニーも極端なものです。この第5番は全5楽章からなりますが、第3楽章のスケルツォ・アラ・ブルガレーゼ(ブルガリア風)では3拍子と5拍子が組み合わされた特殊なリズムがでてきます。◇以下は(クラシックの)弦楽四重奏曲がどのようなものか簡単に説明します。弦楽四重奏はヴァイオリン2挺(1st+2nd)、ヴィオラ1挺、チェロ1挺で演奏されます。それぞれがおおよそ歌でいうソプラノ、アルト、テノール、バスの音域を担当します。これらの楽器は同じヴァイオリン属に属しており、演奏法も音質も似ているので、均一で豊かな響きが得られます。弦楽四重奏曲のつくりは交響曲などとおよそ同じです。つまり”ソナタ”的構造を持っています。以下の記事で基本的なことをまとめていますので参考にしてください。クラシック初心者がまず聴きたい、おすすめの交響曲&名盤まとめ交響曲をはじめ、ピアノソナタやこの記事で扱っている弦楽四重奏は上の記事で書いたつくりを基本としていますが、場合によっては楽章数が減少、あるいは増加することがあります。楽章数が減少する場合は基本の4楽章のうちどれか(一つあるいは二つ)が欠けることになります。楽章数が増加する場合は基本の4楽章の楽章間に新たな楽章が挿入されます。どこにいくつ挿入されるかは曲によって違いますが、楽章数は多くて7楽章までが普通です。今回の記事では最も代表的と思われる作曲家とその代表作を紹介しました。この他にも名曲はたくさんあるので、いろいろ聴いてみると面白いです。弦楽四重奏はシンプルな編成ですが、難しい内容をもつことも多いので、クラシック音楽になれない人はハイドンやモーツァルトなどの明るい曲から聴くことをおすすめします。また、今回紹介できなかった作曲家のうちにも幾人か重要な作曲家がいます。たとえばシューマン、ボロディン、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキー、サン=サーンス、ラヴェルなどです。この記事で紹介したような一流の演奏家達の手によると弦楽四重奏というものが、というか何でも、簡単なもののように聴こえるが、自分で演奏するとそれが全く演奏家による”演技”だったことに気が付く。僕もいくらか弦楽四重奏曲を演奏したことがあるが、曲全体が難しいのはもちろんのこと、”演奏を始める”ということだけで相当難しいことだった。自分ひとりで弾いているのならば自分の好きなときに好きなようにはいればよい。(聴衆が置いてけぼりになる可能性はあるけれど)しかし、四人が同時に入るというのは結構むずかしい。練習ならば、イチ、ニ、サン、シで入ればよいが、本番はそうはいかない。ヴァイオリン奏者は身体の”フリ”とブレス(軽く息を吸う)だけで、他三人に合図して気持ちを一つにする必要がある。しかも曲はそれぞれ異なるものだから、いつも同じやりかたをするわけにはいかない。一斉に入る曲はまだよいとして、例えばモーツァルトの14番の入りなどはなかなか難しい。ファーストヴァイオリンがまず一人でソを鳴らし、それから全員が音を鳴らす。これだけだとまだ簡単に思うかもしれないが、ソを鳴らしてからレが入るまでの時間で、その演奏のテンポがおおよそ決まってしまうのだから難しい。ヴァイオリン奏者は身振りとブレスの”感じ”で、「こういう雰囲気、テンポでやるから、ここで入って」というような複雑微妙なあれこれを伝えるわけである。演奏を始めるだけでこれだけ難しいのだから曲を成り立たせるというのは奇跡的なことである。こういうことを考えると一流の演奏家の演奏の見事さがわかるし、そういう”キキドコロ”もできてくるものである。Anorak (アノラック)大学では社会情報を専門にするも、音楽と語学の勉強に勤しんだため見事な情報弱者となる。趣味は古本蒐集、語学(主にドイツ語)、文学、音楽など。©Copyright2020