大腸がんの生存率は進行度などからある程度予測できます。治療後5年以上生存できる人は少なくありません。統計データを見るとともに、自分がどの数字に当てはまるのかを正しく把握することが大切です。大腸がんに限らずがんは最も死亡者数の多い病気です。2015年の1年間に、がんが原因でおよそ37万人が亡くなり、うち5万人ほどが大腸がんで亡くなっています。1年間で大腸がんが見つかる人、大腸がんで死亡する人の数を表にまとめます。【大腸がんの予測罹患数(2018年)】性別罹患数(全がん中の順位)男性87,200人(4位)女性64,900人(2位)計147,200人(1位)(『がんの統計 '18』を元に作成)【大腸がんの予測死亡数(2018年)】性別死亡数(全がん中の順位)男性28,700人(3位)女性24,800人(1位)計51,600人(2位)(『がんの統計 '18』を参考に作成)他にもがんの情報をまとめたサイトは存在します。がんの情報を簡単に調べるためにネットは役に立ちます。ただし、ネット上の情報は根拠不明のものも少なくありません。役に立つ情報とそうでない情報が玉石混交状態となっています。特に、がんに関しては、誤った情報を信じて行動すると大きな問題につながることも考えられます。信頼できる情報だけを集めるには、できるだけ大学や公共機関が作ったサイトを使うなど、信頼できるサイトを見分けることが大切です。自分が見たサイトを主治医に見てもらうことも有効です。このページでは統計データを理解する助けになることを説明します。大腸がんの生存率と年齢は関係しますが、年齢だけで正確な予測はできません。40歳で大腸がんになったらとはいえ、生存率は年齢だけでなくがんの状態によっても違います。大腸がんは「平均値で言うと高齢者の方が生存率が低い傾向はありますが自分にも当てはまるとは限りません。自分の生存率が知りたい方は、自分のがんがどういった状況で生存率はどの程度と予想しているかを主治医に聞いてみてください。がんのステージという言葉を聞いたことのある方は多いと思います。がんのステージは進行度を示します。進行しているほど統計的には生存率が低くなります。そこで、まずはステージの決め方を説明します。がんのステージは客観的な評価で決まります。評価の基準は、大腸がんの壁深達度(T因子)は、大腸がんが大腸の壁の中にどれだけ深く入り込んでいるかという意味です。深達度の決め方の前に大腸の構造について少し説明します。大腸は図のような構造になっています。大腸がんは、大腸の一番内側(消化された食べ物が通る側)の粘膜から発生します。大腸がんは成長するにつれて粘膜より下の層に深く入り込んでいきます。大腸がんの深達度とは、がんが大腸のどの層まで至っているのかを評価したものです。深達度は以下の表のようにT因子として表現されます。【大腸の深達度評価】T因子深達度Tis粘膜内にとどまるT1a粘膜下層(1,000μm未満)に達するT1b粘膜下層(1,000μm以上)に達するT2固有筋層に達するT3固有筋層を超えるが漿膜には達しないT4a漿膜を超えるT4b漿膜を超えて周辺の臓器に達するμmはマイクロメートルと読みます。1,000μmは1mmと同じです。大腸がんは比較的浅い層で水平に広がっている場合や、狭い範囲でも深い層まで進んでいる場合があります。T因子は大きさではなく深さを判定しています。そのため最終的にはがんを取り出してから顕微鏡で観察することで確定します。治療を選ぶ時点では検査結果から深さを予測します。全身の組織にはリンパ液の流れるリンパ管があります。流れの途中にリンパ節が存在し、異物が侵入すると一時的に捕まえておく門番のように機能しています。大腸の周りにもたくさんのリンパ節があり、大腸からリンパ節に向かってリンパ液が流れています。大腸がんが大きくなる過程で、がん細胞はもとの場所を離れてリンパ管にも侵入していきます(リンパ行性リンパ節転移はもともとのがんの位置から隣のリンパ節に順々に広がっていきます。遠くのリンパ節にいきなりリンパ節転移が発生することはあまりありません。リンパ節転移の数によってN因子を決めます。遠隔転移とは、がん細胞がもとあった場所から離れた臓器に侵入して増殖することです。遠隔転移があるかないかでM因子を決めます。大腸がんが血流に乗って離れた臓器に到達(血行性転移)すると遠隔転移となります。大腸がんが進行する過程で、がん細胞は血管に侵入します。がん細胞は血流に乗って離れた臓器まで到達します。流れ着いた先の臓器でがん細胞が増殖すると遠隔転移となるのです。遠隔転移は、リンパ節転移と異なり順々ととなりに転移していくのではなく、大腸から肝臓や肺などの離れた臓器にいきなり転移するのが特徴です。単に「転移」と言った場合、リンパ節転移は含まず遠隔転移だけを指すことがあります。大腸がんのステージは、腫瘍の深達度(T因子)・リンパ節転移の数(N因子)・遠隔転移の有無(M因子)で決まります。ステージの決め方を表に示します。【ステージの分類】ステージ深達度リンパ節転移遠隔転移0TisなしなしⅠT1、T2なしなしⅡT3、T4a、T4bなしなしⅢA状態を問わず3個までなしⅢB状態を問わず4個以上なしⅣ状態を問わず状態を問わずあり例えば、次の場合はステージⅠです。一方、次の場合はステージⅢBです。ステージの分類は治療の方針を決定するのに重要な判断材料になります。大腸がんと診断された際には治療に入る前にステージ分類を行います。5年生存率とは5年後も生きている人の割合のことです。がんの統計においては、ステージごとに5年生存率あるいは1年生存率(1年後に生きている人の割合)を計算することが多いです。大腸がんでもステージごとの5年生存率のデータがあります。以下にその表を示します。【大腸がんのステージ別5年実測生存率(全国がんセンター協議会加盟施設における)】大腸がんのステージ(UICC)5年実測生存率Ⅰ90.3%Ⅱ81.3%Ⅲ77.5%Ⅳ20.7%(『がんの統計'18』を元に作成)ステージごとの生存率を見ると、ステージが進行するほど生存率が低くなっていることがわかります。ステージⅣはステージ分類では一番最後ですが、「末期がん」という言葉のイメージとはかなり違います。表のとおり、ステージⅣの大腸がんが見つかった人のうち20.7%は5年後も生存しています。「末期」の状態で5年間過ごせると言われると違和感がないでしょうか。ステージはあくまで大まかな分類であり、同じステージに分類される人でもひとりひとり症状や全身の状態は大きく違います。表では5年生存率のことを「5年実測生存率」と書いています。「実測」という言葉は、「相対生存率」と区別する意味があります。相対生存率というのは、がんがない場合と比べてどれぐらい危険かを示す数字です。5年生存率を調べるためには大腸がん患者を5年後まで追跡調査するのですが、5年後までに死亡する原因は大腸がんだけではありません。5年という期間は長いため、大腸がんは治ったけれども老衰で亡くなってしまったということも少なくありません。そこで、純粋に大腸がんによる影響を表すためには、他の原因で死亡することを計算に入れた指標が必要です。大腸がんがある人の5年生存率を、大腸がんがない人も含めた5年生存率で割ると、仮に大腸がんがまったく余命を縮めない場合は「100%」という数値になります。この指標を5年相対生存率といいます。【大腸がんのステージ別5年相対生存率】大腸がんのステージ5年相対生存率Ⅰ98.5%Ⅱ89.9%Ⅲ84.2%Ⅳ22.0%(「がんの統計 '18」を参考に作成)相対生存率はがん以外で死亡する人数を除外していますので、相対生存率の方が実測生存率よりも高くなっています。ステージⅠの大腸がんなら、大腸がんがない人と5年生存率がほとんど変わらないことが示されています。5年相対生存率が99%というのは、「5年後まで99%生きられる」という意味ではないことに注意してください。5年後まで生きられる確率に近いのは5年実測生存率です。実は対象者をさらに細かく分けたデータもあります。大腸は結腸と直腸に分けることができます。したがって大腸がんは結腸がんと直腸がんに分類できます。結腸がんと直腸がんを別に調べた生存率のデータが存在します。以下に表として示しますので参考にしてください。【結腸がんのステージ別5年生存率】結腸がんのステージ5年実測生存率5年相対生存率Ⅰ90.0%99.1%Ⅱ81.0%90.7%Ⅲ77.0%85.8%Ⅳ18.6%20.0%(『がんの統計 '18』を参考に作成)【直腸がんのステージ別生存率】直腸がんのステージ5年実測生存率5年相対生存率Ⅰ90.6%97.7%Ⅱ81.8%88.8%Ⅲ77.0%82.2%Ⅳ14.3%25.7%(『がんの統計 '18』を参考に作成)実際のところ、生存率に関しては結腸がんも直腸がんも大きな差はありませんので、この表はあまり重要ではないかもしれません。しかし、大腸が結腸がんと直腸がんに分けられているのには意味があります。結腸がんと直腸がんの特に大きな違いは、手術の方法です。詳しくは、「がんの転移とは、血液の流れやリンパ液の流れに乗ってがん細胞が別の臓器に移動して増殖を始めることを指します。「大腸がんの肝転移」とは、大腸がんのがん細胞が肝臓に移動したことを意味しています。大腸がんの転移は、リンパ行性転移と血行性転移という2種類のしくみで説明できます。リンパ液の流れに乗って転移した場合をリンパ行性転移と言い、血液の流れに乗って転移した場合を血行性転移と言います。リンパ行性転移か血行性転移かで転移する先の場所が違います。リンパ節は全身にたくさんある器官です。大腸がんのリンパ節転移は大腸のすぐ近くに見つかることが多いです。リンパ節転移がある大腸がんはステージⅢ以上に分類されます。リンパ節転移はリンパ行性転移です。リンパ節転移は順々に隣のリンパ節に現れるという特徴があります。これはリンパ液がリンパ節から隣のリンパ節へと流れていて、離れた場所までリンパ節を通らずに流れる経路がないためです。そのためリンパ節転移が最初に現れる場所は通常、がんの周囲です。リンパ節転移を調べる際には、がんがある場所の周囲のリンパ節に注目することが特に重要です。大腸がんでは、リンパ節転移があるとステージⅢ以上になります。ステージⅢでは手術を行い、その後ステージⅢの生存率は以下のとおりです。【ステージⅢの5年生存率】大腸がんのステージ5年実測生存率5年相対生存率Ⅲ77.5%84.2%(『がんの統計 '18』を元に作成)この統計では、ステージⅢの大腸がんが見つかった人のうち77.5%が5年後も生存し、生存率は大腸がんがある人・ない人を合わせた集団の生存率に比べると84.2%になりました。一般論としてはこの数字は決して低いものではありません。「転移がある」と言われると「末期がんではないか?」と動揺してしまうかもしれませんが、リンパ節転移だけでステージⅢにあたる場合なら7割以上の人が5年後も生存しているのです。大腸がんのステージⅢと告知された方は、気持ちを落ち着かせたあとはしっかりと治療を受けられるように準備しましょう。遠隔転移がある大腸がんはステージⅣです。ステージⅣの中にはいろいろな場合が含まれるので、遠隔転移があるからといって必ずしも「末期がん」とは限りません。「末期がん」という言葉はステージのように明確には定義されていないのですが、ステージⅣの大腸がんが見つかってから5年以上生存する人も少なくないことからすると、ステージⅣのすべてを「末期がん」と呼ぶべきかには疑問があります。そこで、まず遠隔転移がある大腸がんはどんな状態かをもう少し説明します。遠隔転移のほとんどは血行性転移です。遠隔転移はリンパ行性転移と異なり、大腸から離れた臓器にも突如として現れます。血管は遠くまでつながっていて、途中にリンパ節のような構造がなく、一度に流れていけるためです。特に大腸がんは肝転移や肺転移、腹膜転移を起こしやすいことがわかっています。そのため遠隔転移がないか全身を調べる際には特に肝臓と肺、腹膜には注意が必要です。大腸がんの転移しやすい臓器と、それぞれの臓器で転移が見つかった割合のデータがあるので、表に示します。【大腸がんの転移臓器とその割合】肝臓肺腹膜骨脳10.9%2.4%4.5%0.4%0%(遠隔転移がある場合、ステージⅣになります。ステージⅣの生存率は以下のとおりです。【ステージⅣの5年生存率】大腸がんのステージ5年実測生存率5年相対生存率Ⅳ20.7%22.0%(『がんの統計 '18』を元に作成)この統計では、ステージⅣの大腸がんが見つかった人のうち20.7%が5年後も生存し、生存率は大腸がんがある人・ない人を合わせた集団の生存率に比べると22.0%となりました。この数字はさまざまな人の中での割合を見ているものですが、一人ひとりの生存期間にはばらつきがあります。自分にあった治療を行うことで、より長く生きられる確率を高めることが期待できますので、主治医とよく相談して自分に最適な治療を探しましょう。がんを切除し根治したと思われたあとで、一定期間を超えて再びがんが現れることを再発と言います。再発は見えない状態で潜んでいたがん細胞が再び腫瘍として大きくなった状態です。元々のがんのあった部位の付近で再発すること(局所再発)もあれば、遠隔臓器で再発することもあります(元々のがんとは関係ない別のがんが新しく発生した場合は再発とは言いません)。大腸がんはどの部位で再発することが多いのかを以下の表に示します。【大腸がんの再発部位と再発の起こる割合】再発部位再発する割合肝臓7.1%肺4.8%局所(がんのあった部位の近く)4.0%吻合部(手術した断面)0.4%その他3.8%合計17.3%(また、大腸がんの中でも直腸がんの方が結腸がんよりも再発しやすいことが分かっています。特にどの臓器で違いが出やすいかについてのデータもありますので紹介します。【結腸がんと直腸がんの再発の起こる割合の違い】再発部位結腸がんの再発割合直腸がんの再発割合肝臓7.0%7.3%肺*3.5%7.5%局所*(がんのあった部位の近く)1.8%8.8%吻合部*(手術した断面)0.3%0.8%その他3.6%4.2%合計*14.1%24.3%(ここで*の付いている部位では統計学的に差が出ています。直腸がんの方が再発が多いのでより注意が必要ですが、結腸がんでも無視はできません。いずれにしてもがんの治療後の再発の有無には細心の注意を払っていく必要があります。大腸がんが再発していないかをできるだけ早く見つけるには、定期的に検査していく必要があります。ここで、大腸がんの再発は、手術してから5年以内に起こることがほとんどであることが重要です。このため、手術してから5年間は定期的な検査を行うことが推奨されています。実際に行う検査は以下になります。また、ステージが進行しているがんほど再発しやすいことが分かっています。実際どの程度の頻度で再発するのかは下の表で示します。【大腸がんのステージ毎の手術後再発の起こる割合】大腸がんのステージ再発する割合Ⅰ3.7%Ⅱ13.3%Ⅲ30.8%合計17.3%(ステージⅠかステージⅡで手術した人に比べると、ステージⅢの大腸がんで手術を受けた人は、特に慎重に術後検査を行っていくことになります。大腸がんは手術がうまくいってもいくらかの確率で再発します。再発を早く見つけて治療すれば、再発後の治療成功率が上がると考えられます。しかし昨今「手術後の検診や検査がどの程度必要なのか」という議論が一部でなされているのも事実です。実際に手術後の検査を行うことで良い結果が得られるのでしょうか?実際のデータからは、手術後の検査を十分に行うことで、大腸がんの再発巣切除率や死亡率が改善するという報告があります。そのため、通常は手術後定期的に検査が行われます。それでは実際にいつ・どのような検査が行われるかを説明していきます。大腸がん手術後の再発の有無を調べるために、定期的な検査を行います。検査のスケジュールとして推奨されているものがあります。その中では以下の検査を行うとされています。これらの検査は再発を見逃さないようタイミングよく行う必要があります。『◎結腸がんまたは直腸S状部の直腸がんの場合ただし、海外のガイドラインでは胸部・腹部CT検査が1年毎であったりと日本のものと異なっています。この間隔が一番良いかどうかにはまだ議論の余地が残されています。とはいえ予定された検査を自己判断で休むのはお勧めできません。もし疑問に感じることがあれば主治医に質問し、自分の希望を伝えたうえ相談して方針を決めてください。大腸がんが再発した場合は、通常の大腸がんと同様にステージ分類がなされます。がんのステージと身体の状況を鑑みて治療方法が決まります。手術などの治療を経験した後の身体ですので、最初の治療前よりも身体の状態が悪くなっている場合があります。治療の内容は、手術が可能であれば手術を行います。手術が難しい場合は全身化学療法・動注化学療法・熱凝固療法・大腸がんが再発した場合の生存率に関して、明確な数字はありません。しかし、ステージが進行したら生存率が下がると考えていいです。また、手術や化学療法を受けることで身体の状態は悪くなっていることも多く、そのために再発を素早く見つける目的の定期検査を行います。また、再発を起こしにくいように、術後補助化学療法といって初発大腸がんの手術後に化学療法(【参考】Follow-Up After Curative Resection of Colorectal Cancer: A Meta-Analysis.Follow-up strategies for patients treated for non-metastatic colorectal cancer.