未治療の非小細胞肺がん(nsclc)患者に対する「キイトルーダ」単剤療法の5年生存データは、今年のasco(米国臨床腫瘍学会)で発表されたあらゆるデータの中でも際 … 米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、6月はじめに開催されたASCO2018から、非小細胞肺がん向けファーストライン治療に関する免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験結果をまとめてお届けします。 (この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文は 遺伝子変異のない転移性非小細胞肺がんに対するファーストライン治療をめぐる状況は、ここ数カ月の間も絶えず変化しており、単剤または併用レジメンの一部として免疫チェックポイント阻害薬の新たな臨床データが相次いで公表されている。 2018年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)も例外ではない。メルクの「キイトルーダ」(KEYNOTE-407試験/KEYNOTE-042試験)とロシュの「テセントリク」(IMpower150試験/IMpower131試験)、そしてブリストル・マイヤーズスクイブと小野薬品工業の「オプジーボ」(CheckMate-227試験)で、転移性非小細胞肺がんに対するファーストライン治療の新たなデータが発表された。 これらの試験から得られた重要なデータをまとめたのが下の表だ。極めて重要な試験であるKEYNOTE-024試験とKEYNOTE-189試験のデータもあわせて示している。 ・KEYNOTE-042試験では、PD-L1発現率の異なる3つの患者群で、キイトルーダ単剤療法は化学療法に比べてOS(全生存率)の中央値を4.6~7.8カ月延長した。 ・この意見は、KEYNOTE-024試験で示されたOSに対する効果(PD-L1発現率50%以上の患者で確認)を再現しただけでなく、これがPD-L1発現率1%以上のすべての患者に広げられることを証明した。より重要なのは、キイトルーダは化学療法より忍容性が優れており、化学療法ができない患者にとって適切な選択肢となることだ。 ・免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法の有効性は、これまで非扁平上皮がんでのみ証明されてきた。扁平上皮がんを対象としたKEYNOTE-407試験の結果によると、キイトルーダ+化学療法はPD-L1の発現状態にかかわらず、化学療法単独と比べてOSとPFS(無増悪生存期間)を延長することを示した。扁平上皮がん患者も含むKEYNOTE-024試験の単剤療法のデータとともに、メルクにとっては大きな強みとなる。 ・これに対し、テセントリク+化学療法のデータは見劣りする。IMpower131試験では、テセントリク+化学療法はPFSを優位に延長し、投与12カ月の無増悪生存率を2倍(25% vs. 12%)に延長したが、最初の中間解析の時点ではOSの改善は示唆されなかった(次のOSの中間解析は2018年中に発表される見通し)。 IMpower150試験の中間解析結果は、比扁平上皮がんの非小細胞肺がん患者で、アバスチン+化学療法にテセントリクを併用することで、アバスチン+化学療法よりもOSを改善することを示した。ただし、化学療法への上乗せとしてアバスチンをテセントリクに置き換えても(データは未熟ではあるが)、OSは改善しなかった。 ASCO2018の数週間前に公表された、キイトルーダ+化学療法に関するKEYNOTE-189試験のデータは、非扁平上皮がんでこのレジメンを「真の意味で」比較対照に設定した。異なる臨床試験の比較にはリスクがあるが、OSのハザード比はキイトルーダ+化学療法がテセントリク+アバスチン+化学療法より望ましいことを考えると、現時点では前者の併用療法が優位だろう。 IMpower150試験はほかの試験と異なり、前治療としてチロシンキナーゼ阻害薬が投与されたEGFR遺伝子変異陽性の患者やALK融合遺伝子変異陽性の患者も含めている。この患者集団では、テセントリク+アバスチン+化学療法がOSを延長することを示した。 この知見は、遺伝子変異を有する治療歴のある患者で、テセントリクが競合品との差別化を行う上で重要な要素となる可能性がある。こうした患者に対して、これまでのエビデンスは免疫チェックポイント阻害薬の役割を限定していると指摘されてきた。 ・ロシュは18年5月、転移性非小細胞肺がん(非扁平上皮がん)のファーストラインを対象としたテセントリク+化学療法(カルボプラチンとアブラキサン)の臨床第3相試験IMpower130試験で主要評価項目を達し、データを今後の学会(おそらくESMO2018)で発表すると明らかにした。この試験の結果は、テセントリクをベースとした併用療法と、ほかの免疫療法の併用との比較をより明確にする。 ・CheckMate-227試験では、主要遺伝子変異量(TMB)について最初の試験デザインでは規定されておらず、真に前向きの試験に比べて信頼性はやや劣る。PD-L1の発現レベルや組織型にかかわらず、TMBが高レベル(10mut/Mb以上)の患者でオプジーボ+ヤーボイがPFSに関する複数の主要評価項目を達成したことは、ASCO2018の前にすでに明らかにされていた。 ・ASCOで示されたデータは、TMBとPD-L1がより高い予測性を持つことを示唆している。特に、高レベルのTMBを有し、かつPD-L1が1%未満の患者集団では、オプジーボをヤーボイまたは化学療法に追加すると、化学療法単独よりもPFSが向上する。また、オプジーボ+ヤーボイはより安全性が高く、オプジーボ+化学療法よりも奏効が持続した(データは示されていない)。これらの結果は興味深いものだが、重要なOSデータはまだ発表されていない。 ・TMBの測定には時間がかかる上、一定の組織量が必要なため、日常診療でTMBを測定することが可能かどうかは疑問が残る。実際、CheckMate-227試験でも、患者の48~58%しかTMBを評価できなかった。実臨床ではこの割合はさらに低くなる可能性がある。 転移性非小細胞肺がんのファーストライン治療で、キイトルーダは4つの臨床試験でポジティブな結果を得た。これによってメルクは、市場の大きいこの分野でリーダーとしての地位を確固たるものにするだろう。そうすると、アストラゼネカの「イミフィンジ」とトレメリムマブにとって、P3試験MYSTICは大きな賭けということになる。この試験は、PFSの延長を達成することができなかった。OSの最終的なデータは2018年後半に発表される見通しだ。 直接比較試験が不足していることもあり、どのアプローチが患者に最大の利益をもたらすのかは依然として明らかになっておらず、議論の余地は十分ある。現時点で言えることは次の3点だ。 ・有効性と安全性のバランスを考慮すると、PD-L1が50%以上の患者では、キイトルーダ+化学療法の併用よりもキイトルーダ単剤が優位となる可能性がある。 ・PD-L1が1~49%の患者に対するキイトルーダ単剤療法という選択肢には、議論の余地が残るだろう。KEYNOTE-042試験で示唆されたPD-L1が1%以上の患者に対する単剤療法のベネフットは、PD-L1が50%以上の患者集団(被験者の約半数)によってもたらされた可能性があるからだ。 ・PD-L1が1%未満の患者にとってどの治療が最適かというのは、依然として難しい問題だ。キイトルーダ+化学療法も選択肢の1つではあるが、高レベルのTMB患者ではオプジーボをベースとしたレジメンもベネフィットをもたらす可能性がある。PD-L1とTMBがいずれも低い患者は、化学療法単独が適しているということもある。 (原文公開日:2018年6月14日) がん治療薬の中でも特に市場規模の大きい肺がん。ここでの成否が製品の売り上げ全体を大きく左右する状況の中、キイトルーダが圧倒的な地位を確立しつつあります。 今回の記事を執筆したのは、先日このコーナーでインタビューをしたアナリストのKhurram Nawaz氏。Nawaz氏によると、現在世界で行われている1600以上の抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体の臨床試験のうち、最も多いのは非小細胞肺がんで、その数は281に上ります。 Decision Resources Groupの市場予測によると、キイトルーダの世界売上高は2021年にオプジーボを抜き、24年には131万ドルに達する見通し。他剤に先行する非小細胞肺がんのファーストラインでの使用拡大が原動力となります。 この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。