ミニ新幹線 フル規格 違い
「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について」を読み解く九州新幹線長崎ルート(長崎新幹線)の整備について、国土交通省が報告書を公表しました。フル規格、フリーゲージトレイン(FGT)、ミニ新幹線の3つについて、整備費や開業時期について比較検討したものです。ここでは、新たに候補に浮上した、ミニ新幹線について主に考えてみましょう。九州新幹線長崎ルートに関しては、武雄温泉~長崎間に標準軌のフル規格新幹線を新設し、博多方面から在来線を走ってきたFGTを直通させるという方針で進められてきました。しかし、FGTの開発が遅れた上、メンテナンスコストの高さなどからJR九州が導入を拒否。フル規格とミニ新幹線を含めて、長崎新幹線の整備のあり方について再調査がおこなわれています。国土交通省は、調査結果として「九州新幹線(西九州ルート)の整備のあり方について (比較検討結果)」という報告書をまとめ、2018年3月30日に公表。この報告書で特徴的なのは、ミニ新幹線による整備について、これまでになく深く掘り下げられたことです。詳しく見てみましょう。長崎新幹線をミニ新幹線で整備する場合、標準軌のミニ新幹線車両を、狭軌在来線である長崎線・佐世保線の新鳥栖~武雄温泉間約50kmに走らせます。その整備方法としては、単線並列(標準軌と狭軌)、複線三線軌、複線標準軌の3つが考えられます。このうち、複線標準軌については、既存の在来線車両の乗り入れが不可能になるため、他路線との直通列車が多数走るこの区間では現実的でなく、検討対象から外れています。つまり、報告書では、単線並列と複線三線軌の2つについて検討しています。単線並列は、上下線の一方のみを標準軌に改軌して、一方は狭軌のままとします。標準軌、狭軌のどちらの車両も走行でき、既存の新幹線・在来線との直通運転が可能になります。ただし、ミニ新幹線と在来線のいずれも単線での運転となります。したがって、行き違い、優等列車の待避のため、信号場の設置や、駅の待避線の追加などが必要になります。また、整備したとしても、ダイヤの制約が強く、列車本数が減少したり、行き違いのため所要時間が長くかかったります。単線並列の場合、整備後の所要時間は、新鳥栖~佐賀間で特急15分、普通36分となります。現行が特急14分、普通25分ですから、普通列車の所要時間増が目立ちます。博多~長崎間で見た場合は、1時間20分となります。現行「かもめ」の最速列車は1時間48分ですから、28分の短縮です。この短縮効果は、フル規格新幹線区間によるものです。博多~佐賀間は33分です。現行「かもめ」は最速36分ですから、ほとんど時短効果はありません。新大阪~長崎間は3時間44分、大阪~佐賀間は2時間57分と試算されました。整備費用は約1,700億円で、投資効果(B/C)は3.1となっています。工期は約10年で、環境アセスに4年かかるとして、想定開業時期は2032年です。複線三線軌は、新鳥栖~武雄温泉間の上下線とも三線軌条にする案です。標準軌車両(ミニ新幹線車両)と在来線車両のどちらも上下線を走行でき、他の新幹線・在来線との直通も自由自在です。所要時間は現行の在来線列車と変わらず、新鳥栖~佐賀間で特急14分、普通25分です。新大阪~長崎間は3時間38分、新大阪~佐賀間は2時間54分です。整備費用は約2,600億円で、投資効果は2.6。工期は約14年で、想定開業時期は2036年です。運行上の使い勝手だけを考えれば、複線三線軌が優位に見えます。ただ、三線軌条は特殊な構造だけに、障害の発生するリスクが高く、維持管理に手がかかるという難点があります。ミニ新幹線化するには、改軌作業のため、線路での列車運行を止める必要があります。工事期間中は「単線で列車運行しながら施工する(単線施工)」「列車を通常通り複線運行しながら施工する(複線施工)」の2つが想定されます。単線施工の場合は、在来線の運行に支障が出るものの、工期が短く、建設費が小さくなります。複線施工の場合は、工事期間中に在来線の運行に影響は出ませんが、仮線を設置するなどの必要があり、工期が長く、建設費が大きくなります。ここまで記してきた工費・工期は単線施工で試算されており、複線施工の場合は、単線並列で約2,600億円の14年(単線施工なら約1,700億円の10年)、複線三線軌の場合は約3,400億円の18年(単線施工なら約2,900億円の14年)と膨れ上がります。このほか、列車を全面運休して施工する方法もありますが、それでも工期は8年にも及ぶため、長崎線の現在の輸送密度を考えれば現実的ではありません。ミニ新幹線には課題も多くあります。とくに、鳥栖~武雄温泉間には457箇所もの橋梁が存在するため、その改修や掛け替えが多数必要になります。費用が安い単線施工の場合、工事期間中、長期にわたり輸送に制約がかかるため、せっかく開業したリレー方式の新幹線の所要時間まで長くなってしまう可能性があります。開業後に輸送障害が起こりやすいという欠点もあります。フル規格は輸送障害がきわめて少ないのに対し、ミニ新幹線はそうはいきません。走行キロ当たりの輸送障害発生件数は、九州新幹線と比べ、在来線(長崎線・佐世保線)は約4倍、ミニ新幹線(山形新幹線・秋田新幹線)は約10倍となっています。山形・秋田新幹線は雪など気候の問題もありますが、走行安定性がミニはフル規格に比べて大きく劣るのは事実です。フル規格についても触れておくと、新鳥栖~武雄温泉間をフル規格で整備すると、所要時間は博多~長崎間が51分、博多~佐賀間が20分と大幅に短縮できます。新大阪~長崎間は3時間15分、新大阪~佐賀間は2時間44分で、関西~西九州エリアで飛行機を圧倒できるでしょう。建設費は約6,000億円。工期は約12年で、2034年度に開業できます。投資効果でいえば、フル規格は3.3で、ミニ新幹線単線並列の3.1より高くなっています。FGTは、JR九州が導入に否定的な姿勢を見せているため、事実上、導入候補からはすでに外れています。となると、現状で、ミニ新幹線かフル規格かの二択となります。ミニ新幹線を一言でまとめると、フル規格に比べて建設費は少ないものの、時間短縮効果は限られ、工期もフル規格とあまり変わらない、という結論になります。メンテナンスが難しい三線軌条をJR九州が受け入れるなら、複線三線軌は、一つの解決策にはなるかもしれません。フル規格に比べれば建設費は安いですし、並行在来線問題が生じない点は、佐賀県に受け入れられやすいでしょう。山陽新幹線への列車直通も実現できます。三線軌条をJR九州が拒否した場合は、単線並列が検討されます。この場合は、在来線列車の本数が減少し、所要時間が増えることになります。それを地元が受け入れるなら、建設費も2,000億円以下に抑えられるため候補となり得るでしょう。しかし、JR九州は、ミニ新幹線について「工事も運用の経験もない」と消極的な姿勢を示しており、受け入れられる可能性は低そうです。もう一つ、考慮しなければならない課題として、新大阪駅の容量があります。九州新幹線から山陽新幹線への乗り入れについては、新大阪駅の容量がすでに逼迫しており、新大阪発着の列車の設定に制約が生じています。このうえ長崎新幹線が乗り入れるとなると、ホームが足りるのか、という問題が起こります。これに関し、報告書では、「例えば、地下に新たなホームを設けるなどの対策が有効である」としています。そのうえで、「新大阪駅の地下空間には、今後、リニア中央新幹線等の乗り入れが予定されていることから、これらの事業と一体的に整備し、結節させることで、全国につながる新幹線ネットワークを構築する」としています。リニア中央新幹線の新大阪駅地下ホームに、山陽新幹線の新ホームを隣接させることで、乗り換え利便性を確保するという提案を行っているわけです。新大阪駅のホーム問題は、長崎新幹線がフル規格、ミニのいずれで建設されても生じる課題です。どちらで建設するにしても、新大阪駅の容量問題にメドを付けなければ、着工する意味がない、ということになります。新大阪駅には、このほか、北陸新幹線や、阪急新線(なにわ筋連絡線)が乗り入れる計画があります。地下空間も無限ではないので、整理が必要になりそうです。長崎新幹線をどう整備するか。これは、日本で次世代の鉄道網をどう整えていくか、という大きな問いにつながっていくようにも感じられます。FGTの挫折を経て、ミニ新幹線の単線並列、複線三線化の検討、新大阪駅の再整備。いずれも大きな課題です。そして、通過県の財政負担をどうするか、並行在来線問題を克服できるか、という整備新幹線スキームの問題が横たわります。いずれも難題ですが、一つ一つ解決をして、最適な鉄道網を次世代に残せるよう期待したいところです。(鎌倉淳)